整形外科

骨軟部腫瘍の紹介

1. 概要、基本方針

骨や軟部組織から発生する腫瘍の診断・治療を担当します。骨や軟部から発生する悪性腫瘍(肉腫)は、内臓などから発生する悪性腫瘍(狭い意味での「がん」)と比較して発生頻度が低く、多数の組織型が存在します。そのため非専門施設では診断に時間を要したり、結果として不適切な治療が行われたりすることが珍しくありません。当院では病理医・画像診断医と密に連携し、迅速で正確な診断を心がけています。また様々な部位に様々な組織型の腫瘍が発生するため個々の症例に応じた最適な治療を提供できるように努めています。

また近年高齢化に伴うがん患者さんの増加、がん医療の進歩による生存期間の延長に伴い、骨転移でお困りの患者さんが増えています。骨転移による疼痛、骨折や麻痺、高カルシウム血症は、原発巣や他の転移巣に対する治療の妨げになることが多く適切な対処が必要です。当科では骨の専門家として手術、放射線、薬物、装具などの治療手段を駆使して原疾患の治療への影響を最小限に止め、元気にがん治療を継続できるためのお手伝いをしています。

2. 診断の流れ

外来では病歴の確認後、理学所見及び画像所見より腫瘍の組織型を推定します。問診では年齢や性別、疼痛の性状、腫瘍を自覚してからの期間や増大のスピードなどを重視しています。理学検査では触診・打診などを行い、サイズの計測や痛みの確認、周囲の組織との可動性について評価します。画像検査ではまず簡便なX線検査、超音波検査を行い、その後必要に応じてより精密なCT検査、MRI検査を検討します。悪性腫瘍と判断された場合にはPET検査を行い、腫瘍の悪性度や遠隔転移について評価を行います。

病歴や画像検査は腫瘍の組織型の推定に重要で、それらのみで診断を確信できるものもあります。しかし多くの場合は数種類の鑑別診断が上がるため、組織を少量採取(生検)し病理検査を行います。採取した組織を処理し細胞の形や分布を顕微鏡で確認して診断を確定します。腫瘍の種類によって治療方針や予後が変わるため重要なプロセスとなります。当科では生検の質の向上と患者さんの負担を軽減するため、可能な限り外来で施行可能な超音波を用いた針生検術を実施しています。骨軟部腫瘍の病理診断の難易度は高いことが知られており、専門の病理医と常に協議し正確な診断が得られるよう努力しています。

3. 扱う主な疾患とその治療

良性骨腫瘍

骨嚢腫、非骨化性線維腫、軟骨性腫瘍(骨軟骨腫、内軟骨腫)など様々な組織型があり、種類によって治療方針が異なります。基本的に生命を脅かすことは無いため、正確に診断した上で無症状の場合外来での経過観察を行います。骨が脆くなることによる骨折(病的骨折)や疼痛、こぶといった整容性の問題に対しては手術を検討します。良性疾患ですので極力患者さんの負担を減らすような低侵襲手術を心がけています。

悪性骨腫瘍

骨発生の悪性腫瘍は骨肉腫やEwing肉腫、軟骨肉腫などが代表的なものとしてあげられます。以前は致死率が高く、四肢の切断を余儀なくされるケースも多かったのですが、近年薬物治療や手術方法の進歩に伴い、生存率が向上し、患肢の温存率も80~90%程度と改善しています。遠隔転移の無い場合には手術で腫瘍部を含めて広く摘出します。再建については温熱処理骨や腫瘍用人工関節などを用いて患肢の温存に努めています。また、当科にはそれぞれの関節(肩、股、膝など)のエキスパートが在籍しており、協力して手術を行うことでより機能的な再建を目指しています。

薬物治療については他の悪性腫瘍と比較しても治療強度は比較的高く、副作用も多いため、薬物療法の専門家(腫瘍内科医、小児科医)と連携することで質の高い治療を行っています。

転移性骨腫瘍

近年担がん患者さんの生存期間の延長によって骨への転移に伴う骨関連事象(骨折、麻痺、疼痛、高カルシウム血症)が増加しています。骨の専門家である整形外科医の適切な介入により、骨関連事象を回避することが円滑ながん治療に不可欠な時代となっています。当科でもそのニーズに答えるべく積極的な介入を行っています。手術についても必要と判断される場合には積極的に行っており、特にQOLの低下に直結しやすい麻痺は背骨への転移によって起こるため脊椎外科医による手術が行われています。

高齢であることが多いがん患者さんには運動器の障害が併存していることも多く(がんロコモ)、整形外科医の介入でQOL及び生存期間が改善すると報告されています。その観点から一般整形外科医への教育・啓蒙にも取り組んでいます。

良性軟部腫瘍

多数の組織型があり脂肪腫、神経鞘腫、血管腫(静脈奇形)などが代表的です。中には悪性腫瘍のように振る舞う組織型もあるため慎重な診断が必要です。当科外来には高性能の超音波検査装置が設置されており、初回受診時の診断の精度の向上に役立っています。良性腫瘍は生命に直結することは無いため無症状であれば経過観察を行います。疼痛や整容性の観点からご希望される場合には手術を行います。小皮切での手術や関節内の腫瘍に関しては関節鏡を用いることで、傷が目立ちにくく回復の早い低侵襲な治療を心がけています。

悪性軟部腫瘍

代表的な腫瘍として粘液線維肉腫、未分化多形肉腫、滑膜肉腫などの組織型があります。生命を脅かす腫瘍のため、正確な組織診断と病期診断(ステージ)が治療方針の決定に重要です。しばしば良性腫瘍と誤診され非専門施設での単純摘出が行われた結果、より大きな手術が必要になったり遠隔転移を見逃されたりするケースもあり注意が必要です。当科では速やかに画像検査及び生検を実施し早期の治療につなげるよう努めています。遠隔転移が無い場合には根治を目指した手術治療が行われます。腫瘍が残存しないように正常な部分を含めて切除(広範切除)します。部位によっては広範囲の皮膚・軟部組織欠損が生じることがあり、皮膚・軟部組織の再建を形成外科医と協力し行っています。組織型や悪性度、手術の切除範囲に応じて手術前後の放射線治療や薬物療法が検討され、放射線科医や腫瘍内科医と連携して治療を行います。根治性を維持しながら整容性や機能の損失を最小限にするように治療計画を立てています。

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